岡田彰布『そら、そうよ』

 

そら、そうよ ~勝つ理由、負ける理由

そら、そうよ ~勝つ理由、負ける理由

 

 

オリックス

・マジで

・ダメだわ

 

選手として阪神タイガースで13年、オリックスで最晩年1年、監督としては阪神で5シーズン、オリックスで3シーズンと、一流も一流でありながらどうにもその独特な喋り方 と豊かすぎる表情によって面白おじさん的扱いになっている岡田彰布さんですが、監督としては超のつく理論派であります(その考えが選手に伝わっていないこともままあったようですが)。これまでにも何冊か本を上梓しており、監督論的なものもすでに出ています。

 

動くが負け―0勝144敗から考える監督論 (幻冬舎新書)

動くが負け―0勝144敗から考える監督論 (幻冬舎新書)

 

この『そら、そうよ』が面白いのは、岡田さんといえば阪神の人でありながら、現役最晩年を過ごし、3年間監督も務めたオリックス・バファローズの内情についてかなり細かく触れているところなんじゃないか。12年シーズン終盤、数試合を残して突如解任された岡田さんーーと書いていると誰の話なのかわからなくなるので後は「どんでん」で通します。どんでんはその後週刊誌各誌でオリックスのフロントやコーチ陣、選手への批判を繰り広げており、オリックスファンが心を痛めたかどうかはわかりませんが、少なくとも他球団ファンからすればおもしろいものでした。

今回の本の中では、阪神への批判や不安もあります。「金をかけて外国人を取って来て、付け焼刃的の補強になっているのではないか」「金本なき後、チームの中核と呼べる人物が育っていない」「このままでは“暗黒時代”と呼ばれた悪夢の再来になりかねない」と、内心の不安を吐露しています。

一方でオリックスに対しては、いかにオリックスのフロントやコーチ陣がダメだったか、端々にその憤りと呆れが満ち満ちており、第1章「勝つためのチーム作り」第1項「フロント」ののっけから

フロントは次の年に勝つための、上辺だけの補強しか行ってきていない。そのうえオリックスという球団は、負けると現場に力がないと考える。自分たちフロントは、ちゃんと仕事をしていると思っている。(P17) 

 とかまします。その後も、「阪神の時はこんな改革をした」「それでこうして良くなった」という話やGM制度への否定的見解などを示しつつ、

オリックスはとにかく、フロントで決まったことの報告だけが、紙切れで現場に降りてくることが多かった。(P25) 

だいたいずっとこんな調子です。特にユニフォームに関して、交流戦でなんの説明もなく近鉄の復刻ユニフォームを着用させられたことが怒り心頭だったようで、この話、この本のなかで2回出てきます。どん様、そんなに嫌だったの……?あれはけっこうファンの間では人気企画のように思えるんですが。

ともあれ、このようにオリックスに対するダメ出しがベースに流れていることも野次馬根性的にはだいぶ満足なんですが、それをさておいてもこの本は、「結局プロ野球の監督業とはなんなのか」ということを精神論抜きによくよく教えてくれるもので、とてもおもしろいです。どうしても外から見ている身としては監督は権力者であると捉えている部分があるし、贔屓球団が負ければ当の試合における采配をあれこれ言いたくなってしまうものですが、どん様は「全然そんなことはない」と言っているわけです。

監督の能力がチームの結果に及ぼす割合は、決して少なくない。だが、シーズン中に監督の采配で勝てるのは3〜4試合、せいぜい5試合あればいいところ。(P31) 

この数字はけっこう衝撃でした。 「だからこそとにかく事前の準備、事前の準備なのだ」とどん様は繰り返すわけです。そら(フロントと監督が一体になっていなかったら)、そう(勝てない球団になる)よ、ということですね。

なおこの本、当たり前ですけど岡田さんのあの独特の喋り方は一切排除されており、構成担当者様の苦労がうかがえるような気がします。唯一その雰囲気を感じさせるのは、

私はよく、「魅力のあるチーム」という言葉を使っていた。「魅力のあるチーム」とは、「魅力のある選手が、たくさんいるチーム」である。(P177) 

というくだりぐらいでしょうか。というか、そういう言葉足らずすぎるところがオリックスフロントとの摩擦を生んだのでは……?