別冊ジュノン「GIRL'S GIANTS」

 

GIRL'S GIANTS (別冊ジュノン)

GIRL'S GIANTS (別冊ジュノン)

 

 ・菅野選手と祖父の「野球深イイ話

・細かいキャプションに、そこはかとなく馬鹿にしてるのでは疑惑

・結局誰が読むんだろうか

 

坂本勇人選手や宮国椋丞投手、そして今年のドラ1ルーキー小林誠司選手と、最近巨人の若手選手はルックスも含め注目浴びる人がちらほらいます。そもそも近年の読売ジャイアンツは圧倒的に強く、一昨年の日本一の後はオフシーズンは主力選手がバラエティへの出演を重ねたこともあってか、Twitterなど見ていると確かに女子ファンが多い感じがします。そこを狙って作られたのがこの「ガールズジャイアンツ」なのでありましょう。

巻頭ピックアップは坂本選手、菅野智之投手、長野久義選手のインタビュー。「家の中で一番落ち着く場所は?」「洋服選びのこだわりは?」という実に「ジュノン」っぽい質問や、「自分の試合は、奥さんや恋人に見に来てほしいですか?」「野球を知らない女子に『ここに注目すると面白いよ!』と教えるなら…?」といった野球関連の項目が交じるアンケートに加えて、800字程度の「野球にまつわる深イイ話」語りおろしが載ってます(以降の主力選手もだいたい同様の構成)。「深イイ話」ってワードチョイスがちょっと古くないかな?と思うのと同時に、どうしてもこの言葉は島田紳助さんの顔がちらついてしまうわけで、そうすると当然彼の引退理由を思い出し、今はどこの業界も排除排除でコンプライアンスが厳しいねぇと嘆息すれば自動的に原辰徳監督の例の事件はそういえばどうなったんだろうか、というか清武前球団代表は果たしてその後「間に合」ったのだろうか、などと巨人軍の舞台裏に気もそぞろになってまいります。

その原監督の甥っ子であり入団経緯もあれやこれやとありました菅野投手の「深イイ話」は、お祖父様と野球に関するお話です。菅野投手のお祖父様といえば原監督のお父様であり、まさにその“あれやこれや”で中心人物として名前が上がりまくっていた東海大野球部監督であり、アマチュア球界の重鎮・原貢氏なわけです。いま氏の名前で検索をかけたらサジェストに「何様」というのが出てきましたけど、これは検索した人がなにがしかの憤りのあまり、その時考えていた言葉をとりあえず検索窓に並べてしまったやつですかね。

自分が「できない」と思ったら本当にできないし、逆に「できる!と強く信じていれば、厳しいことでも達成できる可能性が出てくる。 だから、一番大事なのは諦めないことーー。

野投手は自分の夢を諦めずに浪人した結果、希望通りジャイアンツに入団できたわけですから、これはまさにその通りですね。 

諦めなければ道は開けることを、僕に経験させてくれたから。今の僕がこうしてジャイアンツで野球ができているのも、祖父のおかげだと思っています。 

それもまさにその通りでしょうね……!

これは「高校1年生で野球を辞めようかと思った時に、祖父の言葉で踏みとどまることができた」という、確かにわりといい話なんです。貢氏の「べつにピッチャーだけが野球じゃないんだし」という孫に向けた言葉はすごく意味があったことだと思う。だけどごめんね菅野選手、いささか斜めに曲がった視界を持っている僕にはどうしてもそういう(意味深)な発言にしか読めないんですよ……!

ちなみに僕は菅野選手が巨人に行ってよかったと思ってる派です。あのまま日ハムに入っていても、大成しなかったんじゃないかな?と思うので。入団経緯にトラブルがあって意中の球団に入れなかった選手は(除・高卒)、ポテンシャルが高くてもあまり長期的に良い成績を残していないような印象があります。菅野選手の騒動の時にも引き合いに出されていた、荒川事件なんかがまさにそうですね。

さておきこの「ガールズジャイアンツ」、後半に宮崎自主トレ密着レポがあり、その中で「練習着☆パパラッチ」なるコーナーがあります。ここまで読み進める間に、各選手のチェキショットや練習風景の小さい写真に付けられたキャプションで少し引っかかりを感じ続けていたのが、このコーナーで違和感がいや増します。もしかして編集部の人たち、書くことなくなってきてないか、と。もっと言うなら、プッシュしているように見せてちょいちょい小馬鹿にしてないか?と。

そもそも野球選手の練習着なんてスポンサードしてもらっているメーカーから贈られたジャージやウインドブレイカーの中から気温対策や動きやすさ重視で選んでいるわけですから、そんなにオシャレになりようがないわけです。そこそこのルックスにまぁまぁの成績なのにいまだ独身なのは何故なのかとファンの間ではささやかれ、女子アナの間ではハズレ扱いされてしまう寺内崇幸選手(30歳)だって、「黒をベースにくすみ感のあるイエローをアクセントにした、大人な着こなし」などと、あれ、いま僕が読んでるの「メンズノンノ」かな?と手に持った本の表紙を確認する必要があるようなキャプション付けられても困ってしまうと思うんですよね。写真見ればわかるんですが、彼はおそらくミズノと契約していて、そのトレーニングシャツ着てるだけですからね。ほかにも例を上げてみましょう。

さり気なく立っているだけで、存在感があった由伸選手。入りの時にはこのウエア+首に白いタオルを巻き、「あいてて」と腰を押さえながら降りてくるなんて、飾り気のない素顔を見せていたよ。 

「飾り気のない素顔」と言いつつ大ベテランの年嵩ぶりを伝えるさりげない手法ですね。

胸元の赤のジップと同色のシューズが目を引くよね。やっぱり俊足がウリの鈴木選手だけに、足元のおしゃれを大切にしているのかな。 

とりあえず鈴木尚広選手は脚の話にからめとけ的精神を感じます。

たぶんこれ、「練習着写真をファッション誌のスナップ企画のノリで料理する」というコンセプトだったのではないかと推測しますが、結果として「実家の母親の作る料理をフレンチのコースメニューのように紹介してみた」的な大喜利企画になっていて、いいぞもっとやれと思いました。一番笑ったのは、笠原将生選手につけられていた

ウインドブレイカーの裾から、下に着ているグレーのTシャツがチラ見えしているのも、おしゃれ感を高めていたよ。 

というキャプションで、これはさすがに画像を添付させていただきますと、

 

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単にTシャツ出ちゃってるちょっとズボラ系男子ですね、これ。

細かくツッコミを入れながら読んでいくとおもしろいのですが、全体に情報量は多くないですし、先に書いたアンケート&インタビュー程度の話は他の媒体でもしてきていることでしょうから、熱心なジャイアンツファン女子にはそんなに目新しい話もないんじゃないかな〜と思いました。「最近野球に興味出てきた!応援するならやっぱり強いチームがいいから巨人かな!」というくらいの女子に向けた入門編としてはいいかと存じます。そんな人がどれくらいこの世間にいるのかはわかりませんが。

岡田彰布『そら、そうよ』

 

そら、そうよ ~勝つ理由、負ける理由

そら、そうよ ~勝つ理由、負ける理由

 

 

オリックス

・マジで

・ダメだわ

 

選手として阪神タイガースで13年、オリックスで最晩年1年、監督としては阪神で5シーズン、オリックスで3シーズンと、一流も一流でありながらどうにもその独特な喋り方 と豊かすぎる表情によって面白おじさん的扱いになっている岡田彰布さんですが、監督としては超のつく理論派であります(その考えが選手に伝わっていないこともままあったようですが)。これまでにも何冊か本を上梓しており、監督論的なものもすでに出ています。

 

動くが負け―0勝144敗から考える監督論 (幻冬舎新書)

動くが負け―0勝144敗から考える監督論 (幻冬舎新書)

 

この『そら、そうよ』が面白いのは、岡田さんといえば阪神の人でありながら、現役最晩年を過ごし、3年間監督も務めたオリックス・バファローズの内情についてかなり細かく触れているところなんじゃないか。12年シーズン終盤、数試合を残して突如解任された岡田さんーーと書いていると誰の話なのかわからなくなるので後は「どんでん」で通します。どんでんはその後週刊誌各誌でオリックスのフロントやコーチ陣、選手への批判を繰り広げており、オリックスファンが心を痛めたかどうかはわかりませんが、少なくとも他球団ファンからすればおもしろいものでした。

今回の本の中では、阪神への批判や不安もあります。「金をかけて外国人を取って来て、付け焼刃的の補強になっているのではないか」「金本なき後、チームの中核と呼べる人物が育っていない」「このままでは“暗黒時代”と呼ばれた悪夢の再来になりかねない」と、内心の不安を吐露しています。

一方でオリックスに対しては、いかにオリックスのフロントやコーチ陣がダメだったか、端々にその憤りと呆れが満ち満ちており、第1章「勝つためのチーム作り」第1項「フロント」ののっけから

フロントは次の年に勝つための、上辺だけの補強しか行ってきていない。そのうえオリックスという球団は、負けると現場に力がないと考える。自分たちフロントは、ちゃんと仕事をしていると思っている。(P17) 

 とかまします。その後も、「阪神の時はこんな改革をした」「それでこうして良くなった」という話やGM制度への否定的見解などを示しつつ、

オリックスはとにかく、フロントで決まったことの報告だけが、紙切れで現場に降りてくることが多かった。(P25) 

だいたいずっとこんな調子です。特にユニフォームに関して、交流戦でなんの説明もなく近鉄の復刻ユニフォームを着用させられたことが怒り心頭だったようで、この話、この本のなかで2回出てきます。どん様、そんなに嫌だったの……?あれはけっこうファンの間では人気企画のように思えるんですが。

ともあれ、このようにオリックスに対するダメ出しがベースに流れていることも野次馬根性的にはだいぶ満足なんですが、それをさておいてもこの本は、「結局プロ野球の監督業とはなんなのか」ということを精神論抜きによくよく教えてくれるもので、とてもおもしろいです。どうしても外から見ている身としては監督は権力者であると捉えている部分があるし、贔屓球団が負ければ当の試合における采配をあれこれ言いたくなってしまうものですが、どん様は「全然そんなことはない」と言っているわけです。

監督の能力がチームの結果に及ぼす割合は、決して少なくない。だが、シーズン中に監督の采配で勝てるのは3〜4試合、せいぜい5試合あればいいところ。(P31) 

この数字はけっこう衝撃でした。 「だからこそとにかく事前の準備、事前の準備なのだ」とどん様は繰り返すわけです。そら(フロントと監督が一体になっていなかったら)、そう(勝てない球団になる)よ、ということですね。

なおこの本、当たり前ですけど岡田さんのあの独特の喋り方は一切排除されており、構成担当者様の苦労がうかがえるような気がします。唯一その雰囲気を感じさせるのは、

私はよく、「魅力のあるチーム」という言葉を使っていた。「魅力のあるチーム」とは、「魅力のある選手が、たくさんいるチーム」である。(P177) 

というくだりぐらいでしょうか。というか、そういう言葉足らずすぎるところがオリックスフロントとの摩擦を生んだのでは……? 

中野渡進『球団と喧嘩してクビになった野球選手』

 

 

プロ野球選手のセカンドキャリアの一好例

・98年優勝後、横浜がダメになった理由が垣間見える

・垂れ流される木塚愛は引退で最高潮へ

 

 

現役時代より今のほうがファン多いんじゃないですか?と思ってしまう、NumberWeb連載「野次馬ライトスタンド」でお馴染みの中野渡進さん、「ナックルズ」での連載をまとめた書籍が文庫化です。これもNumber連載も、『4522敗の記憶』の村瀬秀信さんが構成をご担当されてますね。『4522敗の記憶』もそうであったように、シリアスになり過ぎないドラマチックさと“ハズし”の利いた村瀬さんの名調子と、中野渡さんのべらんめえ調は相性がいいんでしょうね。

これもおそらく村瀬さん&編集さんの丁寧な仕事で、脚注に細かくネタが盛り込んであって見落とせません。たとえば中野渡さんが独身である、というくだりの脚注には

 

毒舌が祟っていまだ独身。木塚以上の存在がなかなか現れない。(P23)

 

とあります。しかしほんとにわたりさんは木塚コーチが好きですね。Numberの連載でも必ず「木塚かわいい」「木塚が頑張ってんだからおめぇら(=横浜の若手投手陣)ピリっとしなかったらぶっ殺す」みたいなことを言ってるわたりさんの木塚愛は横浜港の海より深い。

この本の後半、11年シーズン終盤の木塚さんの引退に関する話が出てきます。99年の同期入団であり、年齢こそわたりさんのほうが1つ上ですが即戦力として数年間共に投げまくった2人の間には、誰にもわからない感情や関係があるのだと思う。これは中野渡・木塚コンビに限らず、プロ野球という特殊な世界で苦楽を共にした人間同士の関係性というのは、おそらく普通の世界から見れば異常なくらいに濃密で、下手をすると歪んですら見えるのかもしれません。11年シーズン、球団から戦力外通告とコーチ就任打診を受けた木塚さんは、それから二度目のわたりさんへの電話で

 

「わたりさん、俺、ここで現役を諦めることって、ずるいことじゃないよね……。俺、わたりさんの分まで精いっぱい投げてきたつもりだけど、もうダメみたいだ」(P213)

 

と涙ながらに告げたといいます。そもそも通算11年リリーフのみで490登板というのはすごい数字であり、「ずるい」なんてこた誰も思わない。そしてその数字の影に、球団と揉めた挙句たった4年でプロの世界から放り出された同期を背負う気持ちがあったというこのエピソードは、わたりさんが「好き好き」言ってるだけじゃない、2人の関係の濃さと真剣さみたいなものを見せてくれます。これに対するわたりさんの返答もいい。

 

あいつの言葉を聞いて、俺の中で澱のように沈んでいたムカつきや、プロ野球へのわだかまり。そんなものが、すべてどっかに行っちまって、俺のたった4年間の現役生活が報われたような気がした。そして、その時、初めて木塚に今まで思っていたことを正直に言うことができた。

「木塚、本当によくやったよ。7年も前に終わった俺なんかのために、ありがとう。もういい、もういいんだ」(P213)

 

ドラマ化できますよ、これ。そしてまたこの後に続く、引退登板の日の話もすごくよい。わたりさんは当日、球場に行かなかった。集まっていた当時のチームメイトからは当然「何やってんだよ早く来いよ」とブチキレられたようですが、

 

もう木塚とは前日に十二分に話をしていたから行く必要はなかった。何を話したかは俺と木塚だけのものにしておきたいから書かないが(略)

 

と言うのです。この「俺と木塚だけのものにしておきたい」というのはいつものわたりさんの木塚愛の調子で読み流してもしまえるけど、これは本音の中の本音に見える。そしてまた、ここで文字にして載せたところで、そこで語られた言葉が持つ本当の意味や重さというものは、読者の誰にもわからない、わたりさんと木塚さんにしかわからないものなのだろうと思いました。

あと、いろんな選手・コーチの話が出てくる中で、「最近の若い奴は覇気がねぇ」みたいなことを言ったわたりさんが、「でもこんな奴もいて面白い」と紹介したのが

 

あ〜昔取った杵柄の話をし始めたら、もう、この人、先がねえってジンクスありますよ。いいとこ2年ですよね〜」

 

というロッテ時代の西岡選手の発言というのが笑いました。西岡選手の「クソ生意気だけど面白い、可愛いヤツ」として年上から気に入られる感じは異常。

西岡剛『全力疾走』

 

全力疾走

全力疾走

 

 

・西岡さんは寂しがり屋

・西岡さんはちょっとスピ系

・離婚問題はどうなっておるのですか?

 

西岡選手、好きです。高卒でロッテ入って頭角現して主将になって、ファンと揉めたりしつつも成績残して、憧れのMLB挑戦して夢破れて帰ってきて阪神入って、これでまだ30歳になっていないって、野球選手の時間の流れの濃密さを体現してるよなぁと思います。「アメリカ旅行から帰ってきました!」という去年のヒーローインタビュー、ロッテファンからすれば素直に笑えないところもあるだろうと思いますが、これを茶化して冗談めかして言ってしまう西岡選手の中に空いているであろう挫折感で覆われた空虚な穴のことを想像して、ゾクゾクしてしまう。

本は西岡選手のこれまでの野球歴を通じて彼のものの見方・考え方を語ってゆく、ごくごく王道の内容です。この1冊を通じて繰り返し西岡選手が言うのは「必要とされたい」ということ。もともとPL学園に憧れていた少年時代、しかし当のPLからは「要らん(要約)」と言われ大阪桐蔭に入り、本当は横浜ベイスターズに行きたかったけどロッテのスカウトに強く乞われて千葉に行き、ミネソタで「野球を辞めようか」と思ったが阪神からの声がけで入団を決める、と、どの選択に関しても彼は必ず「必要とされていることを嬉しく思った」と言う。実際にはカネの問題だったり条件の良さだったりという別のファクターがあるのでしょうが、とにかく彼は「必要としてくれるところで役に立ちたい」という気持ちが強いのだ、ということがよくわかります。その飢え方といったら、12ページしかない「序章」だけで6回「必要」という言葉が出てくるほどです。なんならこの本のタイトル、『全力疾走』じゃなくて『承認欲求』でも良かったんじゃないでしょうか。

もちろんどんな人だって必要とされることを欲しているし、野球ニュースを読む合間にメール打ち返すだけの簡単なお仕事に従事している僕だって厚かましくそう思っている部分はありますから、当然なんですが、それにしてもこの西岡選手の「必要とされたがり」ぶりはちょっと異様に見えます。だからたぶん西岡選手はすごく寂しがりなんだろうなぁと思うと同時に、やはり彼の中には空虚な穴が空いていて、どれだけファンたちに愛されようともその穴の中に吸い込まれてしまって「足りない」「まだ足りない」と彼を突き動かしているのかもしれない、などと勝手な想像をしてしまうのです。本の中で「僕はスピリチュアルなことが結構、好きで」とも言っていますけど、プレイに関する願掛け的なことを除いてもそういうものに心惹かれるところもまた寂しがりっぽいな、と。

基本的に西岡選手のパブリックイメージは“生意気”“ヤンチャ”キャラだと思います。13年オールスターの藤浪選手VS中田翔選手スローボール事件とか、実に西岡選手らしい(本題関係ないですが、この時西岡選手が手叩いて爆笑してるベンチの映像が即抜かれていて、カメラの人なのかスイッチングの管理してる人なのか、中継してる人の勘所がすごいと思いました)。でもそれとは別に、根っこの部分にものすごく自信のなさがあるんじゃないか。それはもしかしたら、憧れのPLに門前払いされた中学時代の傷が原因なのかもしれないと邪推する次第です。そしてその傷が再びアメリカはミネソタで、開いてしまったのではないか。だから、ロッテに帰ろうと思えば帰れる道筋はあったはずだし、別にロッテはそんなに渋チンではないはずなので極端に年俸が安いこともなかっただろうけど、リーグも違えば地域もファン性も違う阪神に行ったのかもしれません。だってロッテやそのファンは、きっと間違いなく自分を必要として歓迎してくれてしまうから。

しかしこの本、離婚協議中とされる奥様と子どもの話が一切出てこないのですよね。家庭は彼にとって「必要とされている」ことを実感できる場所ではなかったのかな、などと行間に思いを馳せました。一方で、「プライベートとユニフォームを着ているときの顔がぜんぜん違う、それでよく驚かれる」という話の流れで、「そのギャップに女性は魅かれるんやろうか(笑)」って書いてありましたから、まぁ相変わらずおモテになるんでしょう。そういうところも好きです、西岡選手。怪我、早く良くなるといいですね。

村瀬秀信『4522敗の記憶』

 

4522敗の記憶 ホエールズ&ベイスターズ 涙の球団史

4522敗の記憶 ホエールズ&ベイスターズ 涙の球団史

 

 

・溢れ出るベイスターズ

・親会社がコロコロ変わってくれたお陰で読めてよかったです

・村田さんも出てくればよかったのに

 

とにかく取材量がすごいです。元球団社長や会長、TBS時代のGMへの取材も貴重ですし、何よりFAなりで出て行った選手たちもきちんと喋っているのが良かった。

あの98年、なぜ横浜ベイスターズが優勝できたのか?そしてなぜ翌年からすぐに再び低迷の時代に突入していったのか?という話から始まります。その優勝に深く関わった琢朗さん、谷繁さん、馬主“大魔神”佐々木さんたちの言葉は重いです。そして何より個人的には、内川選手の登場が効いてると思いました。まぁ内川選手といえばネットでは通称“チック”なんていう呼び名があるわけですけども、彼がきちんとこの本の中であらためて当時の自分の真意や、それこそよくネタにされている「横浜を出る喜び」とかね、そういう発言について口を開いていて、それがすごくグッと来るんですよ。

 

「ホークスへの移籍を決断した時に、僕の発言の仕方が悪くて『横浜を出ることの喜び』という風に勘違いされてしまいましたけど、あれは違います。(中略)インターネットとかで、僕のことが書かれているのも知っていますよ。本当に僕の伝え方が拙かったんです。(中略)正直、あの記事を読んだら、自分でもなんだコイツって思いますよ。なんでこんなことになってんだよ、そうじゃねぇよ……と否定しようとするんですけど、もう言えば言うほど、どんどん深みにハマっていくんですよね」(P253-254)

 

「歴史は勝者によって記される」などという言葉もありますが、この横浜ベイスターズという球団には基本的に敗北の歴史(「4522敗の記憶」)が積み上げられてきているわけです。そうして敗れて(あるいはその敗北の歴史の重さに打ちのめされて)去っていった人たちがひとつひとつ自分たちの記憶を語って歴史をつむぎ、それを著者の村瀬さんが無類の横浜愛でまとめあげているのが素晴らしい。

それと、村瀬さんといえばの中野渡a.k.a“口の悪いモツ鍋屋”の木塚愛の所以がよくわかってすごく盛り上がりました(BL的な意味で)。これはわたりさんの『ハマの裏番 モツ鍋屋になる』にも書いてありましたけど、01年森監督政権下の話で「木塚なんか、投げすぎて最後のほう耳聞こえなくなってんだよ。移動中の新幹線なんて『高校教師』のラストシーンみてぇに2人で指絡めて死んだように眠ってたからな」という話、なんで指を絡める必要があったんですかね……目的地についてもアナウンスが聞こえないから? わたりさんなりのおもしろ小話なんでしょうか。理解が足りなくてすみません。

この本の話をカープファンの知人にしたところ、「優勝から遠ざかっているのはカープのほうが長いんだから、こっちもこういう本出てほしい」と言ってましたが、ベイスターズの場合はなまじ98年に優勝してしまったことで、「なぜあの時は勝てたのに、いつもダメになってしまうのか」という、より屈辱の歴史が際立つ格好になっているように感じます。それから、カープと違って親会社がコロコロコロコロ変わってきたことは、球団としてはとても不幸なことですが、本を書くにあたっては良かったんじゃないでしょうか。だってカープのはじめちゃんのすぐ近くにいた人とか、そんなペラペラかつての内情とか喋れないでしょう、たぶん。

第8章「ホームゲーム」の第1項「横浜に捧げる言葉」のタクローさん→内川選手の並びは涙なしには読めません。読めませんが、ここでも内川選手、

 

「僕がホークスに来て勝てているからといって、ベイスターズのことが気にならないかと言えば、そうじゃないんですね。(中略)横浜は大分の親元を離れてはじめて住んだ街ですし、僕にとっては故郷みたいなものです。そこでお世話になった人、面倒見てもらった人がいて、今の僕が作られていますからね。だから、一般的な常識で考えてもね。その故郷に恩知らずだとか、言いたいこと言って出ていったって……。言われるような……そんなこと思うわけないんですから」(P290)

 

やっぱめっちゃ気にしてるんですねぇ。そりゃそうですよね。ちょっと「内川聖一」って検索かけたら「内川聖一 発言」「内川聖一 畜生」とかGoogle先生がサジェストしてくるわけで、「俺が何したってんだ」って気持ちにもなりますよね。

ところで、ことほどさように内川選手はいろいろ喋ってるんですが、彼の翌年にFAして巨人に行った村田選手はこの本に出てこないんですよね。広島に行ったタクローさん、現中日の谷繁さんも出てるんですが、やっぱり巨人は取材統制的なサムシングが厳しいのかな。読みたかったですけどね。DeNAになった12年というタイミングで出ていった人の心中は気になりますので。