「ベースボールサミット 第2回 特集横浜DeNAベイスターズ」

 

ベースボールサミット第2回 横浜DeNAベイスターズ だからベイスターズファンはやめられない  I☆YOKOHAMA

ベースボールサミット第2回 横浜DeNAベイスターズ だからベイスターズファンはやめられない I☆YOKOHAMA

 

・2号目でDeNA特集という挑戦

・そのわりにいささか保守的な内容

・ファン座談会が一番面白い

 

スポーツ本を好んで読む自分にとって、カンゼン社は常に注目している版元です。基本的には雑誌「サッカー批評」が体現しているような、たとえば「Number」などではやれないような、プレイの裏側にある業界の問題点や政治的・経営的な問題を論じる、まさに批評的な視座を持ってスポーツを語るということをする稀有な方針があると思うからです。スポーツ界にも記者クラブ制度に似たものは存在し、基本的にポッと出の媒体は現場の取材はなかなか出来ず、一方でがっちりネタをもらうためには内部の人たちにとって耳の痛いことばかり報じることは難しい。その昔、「月刊ベイスターズ」が球団公式マガジンにもかかわらず、社会学者の山本哲士氏が連載コラムで大矢明彦監督(当時)を批判したことが当の監督の逆鱗に触れて取材拒否に遭ったという逸話を、以前「東京野球ブックフェア」で当時の編集長氏が語ってらしたが、基本的に競技の現場がそのまま取材の現場である以上、近い関係であればあるほど批判的なことは書けなくなるのは当然のことであります。そうした中で、ギリギリの線を突き続けるカンゼン社さんのお仕事は特異で素晴らしいものだと思っているのでした。

そして今年の4月、同社から「ベースボールサミット」なる雑誌が創刊されました。これは先行する「フットボールサミット」の野球版にあたり、創刊号のテーマは「田中将大ヤンキース成功への道」。

 

ベースボールサミット第1回 田中将大、ヤンキース成功への道

ベースボールサミット第1回 田中将大、ヤンキース成功への道

 

 「ついに野球について論じる雑誌が創刊された!」と嬉しく思った次第です。そして6月に出る2号目は横浜DeNAベイスターズ特集!と告知が出たとき、「これ絶対おもしろいやつじゃん!」と反射的に思いました。昨シーズン、まだ順位は1つ上げただけだけれど、動員を増やし続け、さまざまに新しい企画を打ち出し、そしてチームも中畑清監督のもと、なんとなく「いけそう」と思わせてくれるようになったのは、たかだか球団買収から2年と考えれば、偉業といっても差し支えないのではないかと僕は思っています。なぜそのようなことが可能になったのか? しかも読売ジャイアンツ阪神タイガースに比べて、弱小球団であり且つ親会社が転々としてきたこともあり、横浜ベイスターズが正面切って語られる機会はこれまでそう多くはなかった。そこを敢えて今取り上げるあたり、さすがカンゼンさん、絶対買おう、と発売を心待ちにしていたのです。

結論から言いますと、僕のその期待に応えてくれたとは言いがたい内容の一冊でした。内容は基本的に、中畑清監督や三浦大輔投手、梶谷隆幸選手、石川雄洋選手、荒波翔選手、筒香嘉智選手、金城龍彦選手、井納翔一選手、三上朋也選手、そして池田純球団社長、それから、平松政次さんや佐々木主浩さんらOBへのインタビューと、やくみつる氏や森永卓郎氏といった有名人ファンへのインタビューで構成されています。分量的には現役の選手たちのインタビューがいちばん多いでしょう。しかしそれらは、あくまで彼ら自身と野球やチームとの向き合い方について語っており、率直に言って、「別にこの雑誌じゃなくてもできるんじゃね?」という疑問が、読んでいる間、常に頭をちらついてしまうのです。

むろん、そもそもベイスターズの選手は他球団(というか巨人・阪神)に比べて露出が多くはない。なので、例えば金城選手などはなかなか読む機会がないわけで、そういう意味では貴重ですし、おもしろく読みました。ですが、それでは単にベイスターズ公式雑誌と何が違うのか。創刊号から掲げられた「野球界の論客首脳会議」という命題はどこに行ってしまったのか。

正直に申せば、最初の告知の後、書影がネット上で公開された時から少し不安に思ってはいたのです。8月に行われるスターナイトのユニフォームのイラストが表紙に大々的に配置され、右下にはスターナイトのロゴも入っている。これは球団全面協力のもとに製作されたのであろうことが容易に見て取れます。なんとなれば、タイアップなのではないか?という下衆の勘ぐりまでしたくなってしまう(多分さすがにそれはないと思いますが)。

おもしろくないわけではないです。というか、こうした特集が組まれること自体が、ベイスターズに注目が集まっているというプロ野球を取り巻く機運を象徴しているわけで、それだけでも十二分に面白みがある。ただ、田中将大投手について、師である野村克也さんや同リーグ他球団の主砲(ソフトバンクホークス内川聖一選手/西武ライオンズ・浅村栄斗選手)、かつてメジャーに挑戦した小宮山悟さんへのインタビュー、投球データ分析、アメリカでの移籍の受け止められ方などなど、多角的に分析した前号とは、随分と違ってしまっているなぁ、と思ってしまう。まことに勝手な期待を背負わせてしまっているとは自分でも承知ですが、カンゼンさんならもっと違った作り方ができたのではないのかなぁ、などと思った次第です。